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コラム

胃癌の治療について



胃癌の外科治療

外科部長 長田寛之

当科では胃癌ガイドラインに準じて治療方針を決定します。ほとんどの患者様に対し、創が小さく繊細な操作が可能な低侵襲手術(MIS(Minimal Invasive Surgery))による治療を行っています。
低侵襲手術(MIS)とは、腹腔鏡手術、ロボット支援下手術のことを言い換えた言葉で、腹部の創の大きさが小さいという点のみならず、お腹の中に起こる侵襲(ダメージ)の大きさも抑えることができるという意味から、そのように呼ばれています。

胃カメラじゃない?低侵襲手術(MIS)が低侵襲とは?

胃カメラも腹腔鏡(カメラ)も内視鏡と呼ばれる細い管状のカメラという点では共通しています。しかしながら、観察する対象が異なります。胃カメラは口から消化管(食道・胃・腸)の中を観察しますが、腹腔鏡(カメラ)は、図に示すように、腹腔(容器としてのお腹の空間)の中を観察します。MISでは二酸化炭素ガスを用いて、野球のドーム球場のように膨らませたお腹の内部をカメラで捉え、その映像をテレビ画面(モニタ)に映し出しながら、手術を行います。

開腹手術と低侵襲手術(MIS)

創を大きく開いて術者が直接臓器に触れる開腹手術とは異なり、MISではお腹の壁に5-12mm程度の孔(※)を作成し、ここから挿入した鉗子(かんし)だけで腹腔内の臓器を切ったり、縫ったりする操作を行います。鉗子(かんし)とはMISの為に開発された器械の総称で、お腹の壁に開けた小さな孔から挿入でき、組織の把持・牽引・切離・剥離に特化しております。(※)臓器を取り出す創は平均3-6㎝程度です。

腹腔鏡下手術とロボット支援下手術

鉗子(かんし)を執刀医が直接、手に持って行う手術が「腹腔鏡下」手術であり、一方で鉗子(かんし)を「ロボット」に装着し、そのロボットの操作を執刀医が行う手術が「ロボット支援下」手術であります。通常はロボットと執刀医は同じ部屋の中にいて手術が行われますが、理論上は両者が遠隔地同士であっても通信さえつながれば正確に操作を行えるシステムとされており、遠隔地医療の発展のため様々な挑戦が行われています。

MISの特長は拡大視効果

最も分かり易い特長のひとつは「お腹の”表面”のダメージが小さくてすむ」ことが挙げられます。それを上回る効果としてあげられるのが「拡大視効果」です。腹腔鏡(カメラ)は目標の臓器である胃のすぐ近くまで接近しますので、肉眼で観察するよりも「拡大」して観察することができます。その結果、切るべきラインが正確に把握しやすく、手術をより精密に進めることが可能となり、最終的に「お腹の”中”のダメージ」も抑制することができることにもつながります。
当科ではMISを積極的に導入することにより、手術の精度の向上、手術侵襲の軽減を図り、入院期間の短縮、早期社会復帰に努めています。2023年度のロボット支援下の胃癌術後の在院日数の中央値は7日程度でした。

がん患者様の高齢化・併存するリスクへの対応

外科手術と聞かされると、自分の体力で手術のダメージに耐えられるのだろうか?と不安に思われる方がほとんどだと思います。近年の高齢化に伴い、80歳を超える方の胃癌手術が増加しており、この年代の方々はすでに併存症(胃がん以外の別の疾患)で通院や定期内服をされている可能性が高いのが実情です。このため、予定された外科手術の前には、必ず、循環(心臓血管機能)、呼吸(肺機能)、肝・腎機能、耐糖能異常、貧血の程度など数多くの項目から、「リスクとなる併存症」を把握し、患者様の体力が手術に耐えうるものであるかどうかについて判断のうえ、他科とも連携したバランスのよい治療法選択と術前術後管理を行っています。
術前併存症から算出されるCCIという指数により、危険度をHigh-Middle-Lowの3群に分類した時、術後合併症の発生率がHigh-Middle-Lowの順に高いことを示した報告からの抜粋記事を添付しています。

Impact of the Age-Adjusted Charlson Comorbidity Index on Postoperative Complications after Gastric Cancer Surgery. Nagata T et al. Gan To Kagaku Ryoho. 2021 Dec;48(13):1567-1569.

胃癌の薬物治療

一般にリンパ節転移のある胃癌や早期がん以外の胃癌では手術のみによる摘出だけでは治癒が難しいとされ、手術後に半年から1年程度、薬物治療(抗がん剤)を追加で行う事が推奨されています。

薬物療法の実際

薬物治療においても併存する疾患との相性もあるため、化学療法専門薬剤師と相談のうえ、治療方法や薬物投与量を慎重に選択して施行しています。
初回投与時には副作用や生活状況の変化の可能性に対し、不安を感じる患者様が多くおられますが、専門薬剤師からの薬剤説明で理解を深めていただいてから開始することはもちろんのこと、投与する方法も外来通院で行える方法を選択する事が多く、生活の質をできるだけ保ちながら治療継続につながることを目標としています。通院治療室専任ナースとも連携をとりながら治療前の問診や検査の手配など、多職種でスムーズなマネジメントをこころがけて取り組んでいます。

高度進行癌に対する治療

胃癌自体が大きく隣接臓器に浸潤のある場合、リンパ節転移の個数が多い場合、胃以外の臓器に転移している場合、高度進行胃癌の状態です。とくに、胃以外の臓器に転移病変がある場合、その進行度はStageⅣと診断されます。このような状態では、手術を施しても「癌が肉眼的に残存」あるいは「細胞のレベルで体内に残存」する結果になることが多く、治ることが難しい状態です。
とはいえ、近年、薬物療法(抗がん剤)の発達はめざましく、他臓器転移のあるStageⅣの患者様の治療成績を例にとりますと、30年前の治療では5年生存率が2%(50人に1人が5年間生存できる)であったものが、最新の治療では4年生存率が13%(8人に1人が4年間生存できる)と報告されています。このように、条件さえそろえば、従来の抗がん剤に加え、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を上乗せすることで良好な結果となる患者様が増加する傾向にあります。
当院でも診断時は高度進行胃癌の状態で胃は切除できなかったため、胃空腸のバイパス手術のみを行い、薬物療法を行った結果、腫瘍が縮小して手術が可能となる症例などを経験しています。

当科の薬物治療後胃切除例における組織学的効果判定Grade
2018-2023年


Grade0: 治療効果をみとめない
Grade1a: 腫瘍内にがん細胞が2/3以上残存
Grade1b: 腫瘍内にがん細胞が1/3以上2/3未満残存
Grade2a; 腫瘍内にがん細胞が1/10以上1/3未満残存
Grade2b: 腫瘍内にがん細胞が1/10未満残存し消失していない
Grade3; 増殖しうるがん細胞が全くみられない
<胃癌取り扱い規約第15版より改変>


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