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コラム

肺高血圧症の治療について



Ⅰ.肺高血圧症とは

肺高血圧症はさまざまな原因により、右側の心臓から肺への血管(肺動脈)の圧が持続的に上昇した状態で進行すると右側の心臓が弱ってくる難治性の病気です。近年になり治療薬の進歩で生命予後は改善したものの重症例においてはいまだに不幸な転機をとることが多いのが現状です。
肺血管は予備能が高く60%以上が閉塞しないと肺動脈圧は上がってきません。すなわち、息切れ症状が出現する頃にはすでに病状がかなり進行していることを示唆しています。肺血管障害が軽い早期の状態から治療を行うことで治療成績が良くなると報告されており、可能な限り早く、適切な時期にしっかりと治療を行うことが何よりも重要であると言えます。

『肺高血圧症』の症状

初期は無症状です。
しかし病気の進行に伴い、労作時息切れ,労作時呼吸困難などの症状が出現します。
さらに右心不全の状態になると、顔や足のむくみなどの症状が出現します。

Ⅱ.肺高血圧症 臨床分類

肺高血圧症はその成因によりいくつかのグループに分類されており、現在ではニース分類により5群に分類されています(2017年現在)

臨床分類

1.肺動脈性肺高血圧症(Pulmonary Arterial Hypertension:PAH)
1.1E (Idiopathic Pulmonary Arterial Hypertension : IPAH)
1.2遺伝性(Heritable)
1.2.1 BMPR2
1.2.2 ALK1, endoglin, SMAD9, CAV1, KCNK3
1.2.3不明(Unknown)
1.3薬物/毒物誘発性
1.4各種疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症(Associated with PAH:APAH)
1.4.1 膠原病
1.4.2 HIV感染
1.4.3門脈圧亢進症
1.4.4先天性シャント性心疾患
1.4.5住血吸虫症
1'肺静脈閉塞性疾患/肺毛細血管腫症
(Pulmonary veno occlusive disease : PVOD/ Pulmonary capillary hemangiomatosis : PCH)
1''新生児遷延性肺高血圧症(Persistent pulmonary hypertension of the newborn)
2.左心疾患による肺高血圧症(PH due to left heart disease)
2.1左室収縮能低下
2.2左室拡張能低下
2.3弁膜症
2.4先天性/後天性左心流入/流出路狭窄と先天性心筋症
3.呼吸器疾患および/または低酸素血症による肺高血圧(PH owing to lung disease and/or hypoxemia)
3.1慢性閉塞性肺疾患
3.2間質性肺疾患
3.3その他の混合性肺疾患
3.4睡眠呼吸障害
3.5肺胞低換気障害
3.6慢性高地暴露
3.7発達障害
4.慢性血栓塞栓性肺高血圧症(Chronic Thromboembolic Pulmonary hypertension:CTEPH)
5.原因不明および/または複合的要因による肺高血圧症(PH with unclear multifactorial mechanisms)
5.1.血液疾患:慢性溶血性貧血,骨髓增殖性疾患,脾臓摘出
5.2.全身性疾患:サルコイドーシス。肺組織球増殖症,リンパ管平滑筋腫
(肺ランゲルハンス細胞組織球症,神経線維腫症.脈管炎)
5.3.代謝疾患:糖原病,ゴーシェ病,甲状腺疾患
5.4.その他:腫瘍状閉塞,線維化縦隔炎,慢性腎不全(透析),区域型肺高血圧症
J Am Coll Cardiol. 2013 Dec 24:62(25 Suppl):D34-41
ご覧いただけるように分類される疾患は多く,まずどこに分類されるか診断することが重要になります。グループ1の原因には特発性以外に膠原病や門脈性、先天性疾患があり、またグループ3も肺疾患より出現する肺高血圧症であり、循環器内科のみでは完結することは難しく、各専門家との綿密な連携が重要となります。

こんな人は要注意!

□家族が肺高血圧症にかかっている
□膠原病 □肺塞栓症既往 □先天性心疾患 □肝疾患・門脈圧亢進
□HIV 感染 (□左心疾患 □間質性肺炎・COPD など肺疾患)

Ⅲ.肺高血圧症への治療法

1. 内科的治療

①酸素療法:在宅酸素療法
血中酸素濃度の低下は肺血管を収縮させ肺高血圧症を悪くします。肺高血圧症の方は低酸素状態に慣れていることがあり、自覚症状に乏しいこともありますが、状態をみて酸素療法の導入を相談いたします。
②右心不全治療薬:利尿薬 etc
右側の心臓が弱ることで、むくみが出たり体液貯留(胸水、腹水など)が出現したりするため、負担を減らすために場合により体液容量を調整する利尿薬を投与します。
③ 肺血管拡張薬:Ca 拮抗薬、PDE-5 阻害薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬、
経口吸入 PGI2 誘導体、エンドセリン受容体拮抗薬、PGI2 持続静注 etc


上記薬剤を病態に合わせ選択し、場合により併用しながら治療を行っていきます。重症の PAH においては内服薬のみでは症状の改善や予後改善には不十分であり、そういった症例に対してはエポプロステノールの在宅持続静注療法が施行されます。エポプロステノールは極めて強力な肺血管拡張作用を有する薬剤で、最も実績がある肺高血圧症治療薬です。体内半減期が極めて短いため、皮下トンネルを通して体内に留置された中心静脈カテーテルより正確に一定量の薬剤を投与することが必要になります。内服薬の進歩した現在においても重症肺高血圧症の中心的な治療法の一つですが、在宅での管理が可能です。近年では持続静脈投与だけでなく持続皮下投与が可能なトレプロスチニルが日本でも使用可能となり、治療の選択肢が広がってきています。

肺動脈性肺高血圧症に対する治療手順について

下記PDFをご覧ください。

2.カテーテル治療

グループ4に分類される慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は固くなった血栓(器質化血栓)により肺動脈が細くなったり、閉塞したりする病気です。その原因はいまだ解明されておらず、特定疾患治療研究事業対象疾患(指定難病)に指定されています。
以前はCTEPHに対しては手術(肺動脈血栓内膜摘除術)以外に有効な治療法がありませんでしたが、近年になりカテーテルによる治療(経皮的肺動脈バルーン拡張術:BPA)が可能となり、当院でもカテーテルによる BPA を行っております。安全性を重視し何度かにわけてのカテーテル治療が必要になりますが、通常病態の場合、当院では 3-5 セッションで治療が完遂できるように治療する方針で取り組んでおります。

血管内視鏡で確認できた器質化血栓
提供:京都府立医科大学 中西直彦先生

肺動脈バルーン拡張術

3. 外科的治療

慢性血栓塞栓性肺高血圧症でも中枢型の場合は肺動脈血栓内膜摘除術が必要となる方がおられます。また重症肺動脈性肺高血圧症の最後の治療は肺移植であり、いずれかが必要な患者様に対しては当院は京都大学や国立循環器病研究センターと連携し紹介させていただいております。

最後に

心電図異常や労作時息切れ、倦怠感等の症状で受診され、心臓超音波検査を行った際に三尖弁逆流最大速度が高値、肺高血圧症を示唆する所見(左室圧排像など)を認めた症例を経験された先生は多くおられると思います。左心疾患がはっきりせず、明らかな肺動脈圧上昇が疑われる症例に対してどのように対応されているでしょうか。肺高血圧症臨床分類 1-5 群を正しく診断し、さらに合併症も評価した上で治療方法を選んでいくことが非常に重要になります。軽症の方や疑い症例でも、このまま無治療で経過観察として良いのか、治療介入すべきなのか、治療による効果がどの程度期待できるのか病態ごとに判断していかねばなりません。

近年、肺高血圧症薬は発展し様々な薬が出てきており、治療の選択は広がりましたが、肺高血圧症の原因によっては薬剤を投与することで低酸素血症を増悪することもあり、病態にあった治療が必要となります。初期の肺高血圧症は自覚症状が非常にわかりにくく見過ごされていることが多くありますが、5年先の予後には確実に影響してきます。息切れ症状が強くなった時にはすでに病状が進行してしまっていることが多く、早期発見・早期治療がその後の生命予後を決定するため、ハイリスク患者様のスクリーニングはもちろんのこと、少しでも自覚症状のある場合にはまず疑うことが重要です。

原因のわからない労作時息切れ・易疲労感などの自覚症状がある方は心電図や心臓超音波検査で非侵襲的にスクリーニングし、軽度でも肺高血圧症が疑われるような所見があれば当院でも評価させてもらえれば幸いです。
当院で心臓超音波検査の検査orderいただければ結果は所見用紙と情報提供書でお返しいたします。
ご気軽に御連絡ください。
(患者総合支援課 0748-31-1204 代表 0748-33-3151)

近江八幡市立総合医療センター 循環器内科 副部長 深井邦剛
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